前回は、「腹筋と背筋が弱ることで腰痛」となるのは間違えではないが、腰痛の原因のごく一部でしかない事。背筋とはそもそもどんな構造なのかを書きました。

今回は、腰痛を起こしづらくするための腹圧と腹筋の関係を書いていきます。

腹圧

腹圧というのは腹腔内圧の略です。最近では少しずつ変わってきているかもしれませんが、腹圧を高めるという言葉が体幹トレーニングやコアトレーニングによって世の中に一般的になっていく中で、「腹筋を鍛える、もしくはお腹を硬く保つことで腹圧が高まり、腰痛予防になります。」という解釈もされています。しかし、それは正しい事なのでしょうか。その点を書いてみます。

腹圧高い低い

腹圧が高いと腰の背骨のカーブがまっすぐになり、腰への負担が減る、また低いと腰の背骨のカーブがきつくなり(支えられなくなり)腰痛を助長してしまうという原理を示した図です。

この図では正しいように思えます。では、腹圧を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。

まず、結論から。腹筋を鍛えても、お腹を硬くしてもそれだけでは、腹圧は高まりません。もちろん腹筋鍛えても、腹圧を高めても腰痛予防になりえます。日常的に腰痛予防という観点においては腹横筋等の筋肉を鍛える事に意味はありますし、瞬間的な動作に関しては腹圧を高める事に腰痛予防の意義はありそうです。このあたりは後ほど書くとして、まずは腹圧はどこの圧力で何が関与しているのかを書いていきます。

腹圧に関係する筋肉たち

腹圧は先ほど書いたように腹腔の内圧ですから、腹腔を覆う筋肉たちが関係すると言えます。

列挙すると細かくなりすぎるので、重要と思われる筋肉を4つ。

①腹横筋 ②骨盤底筋群 ③多裂筋 ④横隔膜

腹圧構成筋

お腹周りの腹圧に関係する図ですが、まずはおおよその場所が分かれば大丈夫です。骨盤底筋に関しては、過去のブログに書いていますので詳しくは、こちらをみてください。

腹圧を高める要素

腹圧と体幹の関係に関しては、蒲田和芳先生の学位論文が参考になりますので、こちらも参考にしてください。ただ、こちらはちょっと専門用語が飛び交うのでかいつまんでまとめると以下の様な事が腹圧を高める要素として挙げられます。

・腹圧の上昇には、腹横筋や腹斜筋という筋肉だけではなく、呼吸(横隔膜)が大きく関与している。

・この際の呼吸は、最大限息を吐いた際の状態(最大呼気時)または瞬間的に息を吐いた時、瞬間的に息を止めていきむ力(バルサルバ効果)で、呼吸を持続的に行っているような時には腹圧の上昇は見られない

・体幹を伸ばす筋肉たち(体幹伸展筋=多くの背中の筋肉たち特に深部の筋肉たち)と腹圧の上昇は関係性があるが、腹筋運動のように身体を前に曲げる、仰向けから起こす(シットアップ)のような状況では腹圧は高まらない

・また、関与する筋肉の筋の太さや厚みは腹圧とは関係性がない。

軽度腰痛症の方の体幹筋力と腹圧には相関関係は低い。また体幹筋力の筋力低下も認められない。

という研究結果です。

言ってしまえば、腹筋を鍛えても、腹圧は高まりません。また、呼吸を持続的に行う運動(ほとんどの運動です)も腹圧を高めません。呼吸しながらのドローインも腹圧を高める効果は薄いと言えます。しかしながら、例えば今はラグビーのワールドカップが行われていますが、相手とぶつかり合う、または瞬間的に動く方向を変える等の際にいきみながら体幹に力を込めれば腹圧は高まります。また腰痛の患者さんも腹圧低下が原因で腰痛になるとは言い切れない。むしろ、体幹を安定させる筋肉たちの協調性不足が腰痛につながるのではないか、という事になります。

 

腹圧VS腹筋群

腹圧が低いから腰痛になる、ではなく、右の様なたくさんの姿勢に関わるような筋肉たちの緊張や弱体化、もしくは筋肉同士の連動性が低くなることで骨盤の傾斜が前に引っ張られることで腰の背骨が反ってしまったり、顔が身体よりも前に行く結果、背骨のカーブもきつくなり、腰痛になると考える事が出来そうです。最初に書いた、腹圧を高めれば背骨が前にカーブしなくなり腰痛を予防できるという原理よりも、筋の作用による腰痛が多いという結論に達しそうです。また、腹圧を高めるには、最大限息を吐いたり、いきむように呼吸を瞬間的に止めなくてはなりませんが、日常的にそのような事をしていたら、血圧の上昇を引き起こし、別の問題が血管系統に出てきます。現実問題、息を瞬間的に止めている事を繰り返しているようなことは日常生活では行わないのではないでしょうか。

誤解しないでいただきたいのは、腰痛予防においてヨガ、ピラティスなどで行わるドローイン(例えば仰向けになり膝を90度位に曲げた状態で、自然に出来た腰のアーチを床に押し付けるように平らにして、結果、お腹が凹むようになる動作です)が腰痛予防にならないう事ではありません。ドローインを効果的に行えば、お腹の奥にある腹横筋の収縮を促せるので、腰周りを中心とした広範囲にわたる筋肉のコルセットを自然に強化する事になる、これは腰を守るために非常に有効だと思います。しかし、ドローインを腹圧強化ととらえるには無理があるという事です。腹圧は、「圧」でしかありません。筋肉の「緊張度」を高める(お腹に力を入れる)こととは相関性がありません

腹圧を活用している時

では、腹圧はどの様な時に腰痛予防に働いているのでしょうか。先ほど書いたように、身体をぶつけるようなスポーツやとっさに方向を変える瞬間などは腹圧を高める事があるかもしれません。しかし、日常ではもっと身近に実は使っています。それが前かがみで下のものを持ち上げるという動作です。

腹圧前屈

もし、腹圧が全くない状態で下から10kgの重量を持ち上げようとした場合、背骨についているような深いところにある筋肉には141kgの負荷がかかると計算では出されています。しかもこれは膝を少し曲げた状態ですので、膝を完全に伸ばしている状態では250kg。しかし、物を持ち上げる際に、いきむように呼吸を止めた状態で持つと、負荷は55%減少し、背骨にかかる負担も相当減少します。しかし、先ほども書いたようにいきむよう力を込めることは血圧の上昇を招きますので、出来れば物を持ち上げる際は身体をまっすぐに保ち、しゃがんで持ち上げるようにする事が腰への負担を軽減させることをお勧めします。

まとめ

腹圧という言葉が独り歩きしているかもしれません。何となく、お腹周りの筋肉を緊張させ硬くすれば腹圧が高まり、腰痛予防になるという誤解を書いてみました。コアトレーニング、体幹トレーニングという事が世の中に広がるなかで、それはいいことかもしれませんが、それらを取り組む際に、「今、何を(どこを)意識し、どこを鍛えているのか、何の為にそのトレーニングを行っているのか」というポイントを外し、形をなぞるだけのトレーニングは意味はあまりないのかもしれません。むしろ、それらをしたことで腰痛を引き起こしてしまう事もあるかもしれません。しかし本来はしっかりとトレーニング内容を理解して行えば、そのリスクは減らせますし、有効に働きます。行う際はできれば、本やネット、DVD等だけではなく、それらを実施しているトレーナーや施術者、医師に一度やり方をチェックしてもらい、正しく取り組んでみてください。その意味で、文中に何度も出てきていた「ドローイン」というものの図やイラストは書いていません。