妊娠中のケアについて

妊娠中の変化については前回のブログでも書いたところですが、当院にご来院の方で妊娠中が理由にマッサージを受けられなかった、肩が凝っている、腰痛などをかかえていながらそれを我慢するしかなかったという方がいらっしゃいます。

実際、妊娠中とくに安定期(16週、4ヶ月)過ぎるまでは施術をしないというところも少ないでしょうがあるのは事実です。今日はそのあたりの事を書いてみようと思います。

*あらかじめ、当院ではいずれの期間でも施術は行っているので、その立場から書いてしまうかもしれませんが、ご了承ください。

妊娠中の胎児の変化

妊娠中の母体の変化については前回東洋医学的な観点から書いてみましたが、今回は胎児の変化について書いてみようと思います。

taijito

上の図は東洋医学の古典と現代の医学の両面から妊娠中の胎児の変化を示しています(東洋医学の古典としては黄帝内経が有名なのですが、こと妊娠中の事に関しては、「胎産書」という本が産科に関する一番古い書物とされています。およそ紀元前165年頃と推測されていますが、その頃から中国では特化して産科を扱っているという事かも知れません)。図の中の女性図は「産経」という所に示されていますが、その他、様々な文献をまとめてあるのが上の図となります。

図をクリックして見ていただけるとありがたいのですが、人体図の下の段は「足厥陰肝経」を始まりに「足太陽膀胱経」まで10の経脈名が書いています。これは妊娠1ヶ月目は足厥陰肝経が胎児を養っているという事になり、2ヶ月目は「足少陽胆経」が養うという具合で10ヶ月までの気を養っている経脈が示されています。その下の段は、古典における胎児の変化。初めの3ヶ月までは胎児の状態を示していますが、その後4ヶ月目以降はどの様な器官が形成されるかを示しています。更にその下は現在の医学における胎児の変化です。古典との比較をしやすくしています。これら胎児の変化に関する内容はかなりまとめています。詳しくはご自身で調べてみてください。そして、最後の2段はその機関に起きやすい妊婦さんのマイナートラブルを示しています。つわりはおよそ妊娠2か月目から5ヶ月目までが多いという具合です。

禁鍼穴(きんしんけつ)

妊娠中のケアに関して積極的に行うべきではないという考えの1つが、誤って使うべきではないツボに刺激を入れることで胎児を堕胎させてしまう、いわゆる「堕胎のツボ」というものがある事が挙げられます。特に安定期に入る前にこれらをいたずらに刺激するべきではないという事になっていまし、この点は賛成です。多くの文献でも堕胎のツボに関しては書かれていますので、あながち無い話ではないかと思います。

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これは一般的に良く言われる妊娠中の禁鍼穴(きんしんけつ)です。合谷にしても三陰交にしても鍼灸をするものにとって非常にメジャーなツボです。この内、三陰交は安定期に入るまでは「堕胎のツボ」、安定期後は「安産の灸をすえるツボ」と時期によって真逆の効果をもたらす事が言われています。これはどういう事でしょうか。

前回のブログにおいて妊婦さんは陰虚、陰血になりやすく気が滞る事が多いという事を書きました。妊娠期間の母体に関しては「血をもって用となす」や「気に有余にして、血に不足す、…」という言葉があります。いたずらに身体から水分を尿として出したり汗として出すような、利尿作用のあるものは避けるべきですし、血の状況を良くしようと瘀血(おけつ)という流れの無い停滞する血を去らせる手法も行うべきではないという事が妊婦さんに対してのアプローチでした。また、全身倦怠感に対して気を補う手法も好ましくありません。合谷というツボに補法を行うと全身の気を補えるので(瀉法という余った気を取り除く方法を使うと解熱や肺を綺麗にするという効果があります)、妊婦さんには堕胎につながりますし、三陰交に瀉法を用いてしまうと「活血去瘀」という瘀血を去らせる作用で血を奪ってしまいます。

安定期に至るまでは任脈や衝脈という流れが子宮に対して血の供給をスムーズにしている所で、そこに血を全身にめぐらせ、子宮に集まった血を流してしまう事はやはり原理的に宜しくはない。その意味では三陰交への瀉法は避けるべきでしょう。しかし、一端安定期に入り、胎児の四肢や器官の基礎が出来た後は血を補い滋養するために三陰交にお灸をして補法を行う事は安産につながる。要は安定期を境に血の働きを留めるべきか活性化すべきかの差が「堕胎のツボ」「安産灸のツボ」となると思います。

ちょっと難しいのでまとめますと、妊娠中に合谷に補法、三陰交に瀉法をすると気を補い停滞する血を去らせることで堕胎につながるとしているという事です。その他、先ほどの10の人体図が書いてあるイラストにそれぞれの期間に養っている経脈が書いてありましたが、妊娠のその時期にその経脈(特に一部募穴や兪穴と言われるツボ)をメインに使う事は避けるべきという事が古典では示されています。

しかし、これらは文献的に禁鍼穴として紹介されていますので、「知らずに足のむくみを取る為に自分でマッサージして三陰交を押してしまっていたけど大丈夫ですか」という疑問には「大丈夫」と言えそうです。むやみやたらに押していいとは言えませんが、鍼の操作によって三陰交に瀉法を用いる場合が危険ですので、押しただけではそれ程強い刺激は与えられていないと想像できます。

時としてそれらに鍼を用いた結果不幸にも堕胎してしまったという事があるかもしれませんがはたしてどこまで相関性があるのかは疑問です。また、鍼を使っても全く問題無かったという事例もたくさんあります。

結語

妊婦さんを当院では安定期前から診る事もしばしばあります。それは示したマイナートラブルであるつわりが安定期前から始まりますからそのケアを行う事がほとんどですが、大事なことはその時の妊婦さんの状態を東洋医学的に診立て、現代医学的な知識を基にアプローチを決定すること。その中で古典に書かれている先人の経験を踏まえながら行う事でより安全なアプローチが可能になります。

妊娠中の辛い体調管理に適切なアプローチは有効です。安定期前後

で施術を受ける不安もあると思いますが、まずは受ける先の先生に良く相談して、ご自身の不安をしっかりと解消して心身の状態を健やかに保つように心がけてください。