ストレッチは、院でもセルフケアの一環として提案することの多いものです。しかし、医学同様、トレーニング、スポーツシーンにおいても多くの研究がなされ、様々なストレッチに関する考え方が出てきています。

今回は、ストレッチに関して、特に静的ストレッチと動的ストレッチの違いを書いてみようと思います。

ストレッチの種類

ストレッチには今回取り上げる静的ストレッチと動的ストレッチも含め、現在のところ以下のようなものがあります。

・静的(スタティック)ストレッチ

・動的(ダイナミック)ストレッチ

・バリスティックストレッチ

・PNFストレッチ

・クライオストレッチ

このあたりが筋肉を対象としたストレッチになります。最近では筋肉をストレッチするという観点よりも、筋肉を包んでいる筋膜を伸ばすことで肩こりなどの不調を改善させるという筋膜ストレッチも出てきています。

静的ストレッチと動的ストレッチ

・静的ストレッチ

いわゆるストレッチというとこのタイプを思い出す方が多いと思います。伸ばしたい筋肉をゆっくりと持続的に(30秒から1分間くらい)反動や反復動作を繰り返さずに伸ばしていくというものです。運動前やウォーミングアップとして取り入れることで怪我の予防、運動時のパフォーマンス向上(可動域を広げるため)、クールダウンに取り入れ、疲労回復、筋肉痛の予防につながると言われていることから一般的なストレッチであると言えます。しかし、ここ10年くらいでその効果に疑問符が付くようになりました。つまり、静的なストレッチは怪我の予防につながらず、パフォーマンスの向上ももたらさず、筋肉痛の予防にも関係がないというものです。これに関しては様々な機関での研究がなされ、現時点での運動生理学的には、正しいと思われます。

筋肉や腱にかかわるセンサー(筋紡錘、ゴルジ腱器官)

 

ここからは少し専門的になってしまいますが、筋肉そして腱にはそれらにかかる引っ張る力(張力)や緊張を感知するためのセンサーがあります。筋肉内にあるセンサーを筋紡錘(きんぼうすい)といい、腱に存在するセンサーをゴルジ腱器官といいます。筋紡錘は筋肉にかかる緊張や張力を感知するためのものです。極度に筋肉が引き延ばされたりしたら筋肉は損傷してしまいますので、そのようにならないように筋肉を緊張させ、守ろうとします。脚気のテストとして、膝の下あたりをたたいてみると正常な反応としては膝から下がぴょこんと上に上がります。これは筋紡錘の働きによるものです。筋紡錘は瞬間的に筋肉にかかった張力に対して、緊張させることで守ろうとするセンサー(主動筋、拮抗筋の概念まで説明すると大変なことになるので割愛します)これに対し、腱にあるセンサー、ゴルジ腱器官は腱に張力が加えられた際にそれが過度に引っ張られるとその情報を脊髄に伝達します。筋紡錘のように瞬間的に加えられた刺激に反応することは苦手なセンサーですが、過度に引っ張られたという情報を受け取った神経は、そのままでは腱そして筋肉にダメージが与えられてしまうことを回避するために、伸ばされている腱、そしてそれにつながる筋肉を緩めるように抑制をかけます。静的ストレッチはこの抑制から筋肉の緊張をゆるめるという一連の作用を利用して行われています。この一連のながれで筋肉の緊張に抑制がかかるまでに30秒ほどかかるので、ストレッチの時間が30秒くらいは必要ですという事になります。静的なストレッチでは、痛みを伴わず、ゆっくりと行うことが求められるのは筋紡錘を働かせないことで余計な筋肉の緊張を出さないためです。

筋紡錘の作用

伸長反射

 

ゴルジ腱器官の作用

ゴルジ腱器官

とりあえず図で示してみました。本当はもっと複雑な伝達がされているのですが、要するに筋肉には筋紡錘という筋肉の緊張や長さを感知するセンサーと腱にはゴルジ腱器官という腱にかかる長さを感知するセンサーがあって、反射的な筋肉の緊張や、筋肉の緊張を緩和させることで、必要以上に筋肉や腱に負担が来ないようにしているという事がなんとなくわかっていただけたら良いと思います。

ここでイメージしてみてください。静的なストレッチを行うことで、ゴルジ腱器官の働きを利用して筋肉の緊張を出させずに筋肉を伸ばした結果、筋肉は本来持っている張り(筋トーンと言われる自然にある緊張状態です)よりも緩んだ状態になったとしたら、運動は筋肉の激しい収縮の連続です。本来の張りを失った筋肉は運動に求められる筋力を発揮できない状態になります。つまりパフォーマンスの低下です。静的ストレッチによって筋紡錘の働きが抑制かけられる状況は1時間ほど続くと考えられています。そのような筋肉の適度よりも下回る筋肉の状態は運動中におこる瞬発的な筋力を発揮できず場合によっては怪我を助長することも考えられます。現時点では運動前に静的ストレッチを行ったことによって怪我の発生率が増えているという研究はまだないようですが、静的ストレッチを行った場合と、行わなかった場合とで発生率に有意な差がないことはわかってきています(言ってしまえば、怪我をするときはしてしまうという事になります。これを回避するために、運動を行う人は正しい技術やそれを支える神経、筋肉のコーディネート能力を高めていく必要があります)。また、クールダウンで静的ストレッチを行ったことによって筋肉痛の発生が有意に低下したという研究結果もありません。つまり運動前に静的ストレッチを行う理由としてあげられた「パフォーマンスの向上」「怪我の予防」、クールダウンの「筋肉痛の予防」には寄与しないと考えるほうがいいかもしれません。

ではいつ行うことが望ましいのか、ストレッチ全般に言えることですが、筋肉の血流量が多い時のほうが安全にできるものですので、お風呂上りが静的ストレッチのベストタイミングと思われます。また、運動後に行うことも筋肉痛の除去という目的にはそぐわないかもしれませんが、関節の可動範囲を増すというストレッチの効果を出しやすい時期といえます。

ちなみに、すでに故障を持っている方(ケガや慢性的な筋肉の緊張がある人の場合)は、可動域が普通の人とは変わってくる場合があります。この場合は運動前でも静的ストレッチで可動域を広げることが効果的になります。その後、後述する動的なストレッチをすることが望ましいでしょう。

・動的ストレッチ

動的ストレッチはダイナミックストレッチとも言われていますが、ダイナミックだからと言って、大きく行えばいいというものではありません。「ある姿勢から別の姿勢までゆっくり運動させ、回数を重ねるごとに徐々に範囲・可動域を広げていくストレッチ法」というのが動的ストレッチの定義なのですが、例えば、片方の脚を前後にゆっくりと振っていく、そして徐々にその範囲を大きくしていくというのが動的ストレッチです。ラジオ体操も行ってしまえば、動的ストレッチの範疇に入るかもしれません。

この動的ストレッチには以下のような効果が期待できます。

・心拍数を上げる

筋肉を動かしながら行うことで筋肉の血流量を増し、結果として心拍数を上げていけます。

・ウォーミングアップになる

ウォーミングアップは心拍数を上げ、筋肉の温度を上げていくことで運動に適した状態にすることですが、動的ストレッチは関節運動をさせながらこれらを達成することができます。

・筋肉の可動範囲を広げる

徐々に動かす範囲を増やすことで、筋肉が動きやすい状態になります。これは怪我の予防にもつながります。

・交感神経が優位になる

動かしながら行うストレッチは、リラックスとは真逆に作用していきます。交感神経は、アクセルのようなもの、これが優位になっている方が、運動には適しています。

静的・動的ストレッチ

動的ストレッチは脚を徐々に前後に振ることで、静的ストレッチのももの前の筋肉と後ろの筋肉を動的に使うことができます。これに加え、腕の振りも徐々に前後に振ることで、より多くの筋肉の可動性を上げることができます。

まとめ

静的ストレッチは、決して、有害ということを伝えたいわけではありません。しっかり取り組むことで、関節の可動範囲を増やすこともできますし、リラクゼーション効果ももたらされるでしょう。しかし、運動前、特に瞬発的な運動を行おうとしている時はそのパフォーマンスを低下させ、むしろ怪我を負いやすい状態を作る可能性が高いという事はわかっていたほうがいいでしょう。それに対して、運動前には動的なストレッチを導入したほうが、これから行う運動の準備として適しているという事になります。

静的ストレッチ

・ゆっくり行う。痛みを伴わせない。これは筋紡錘による筋肉の緊張を起こさせないためです。

・30秒位を目途に行う。これは、ゴルジ腱器官の作用を利用して、筋肉を効率的に緊張から解放していくためです。

・行う場合は、運動前よりも、運動後、もしくはお風呂上り、就寝前などがタイミングとしては良いものです。

動的ストレッチ

・いきなり大きく動かすのではなく、徐々に可動範囲を広げながら行いましょう。

・ウォーミングアップの一環として使え、運動前に適しています。

上手にストレッチを組み合わて行くことで、より効果的なストレッチ効果と準備運動ができるようになると思います。